大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所第二小法廷 昭和39年(あ)421号 決定

主文

本件上告を棄却する。

理由

検察官の上告趣意は、憲法違反、法令違反、事実誤認を主張する。

一、違憲の論旨について。

論旨は、破壊活動防止法(以下破防法という。)三八条二項二号所定の文書は、その内容自体が公共の福祉に反する言論であり、かかる文書を正当な理由なく頒布する行為は明らかに表現の自由の著しい濫用として憲法二一条の保障の範囲外のものである。また、同号にいわゆる内乱罪を実行させる目的も違法なものであるから、原審の如く右目的の解釈適用について言論自由の保障の見地からさらに限定的な顧慮を払うことは憲法二一条、一二条の解釈を誤ったものである旨主張する。

しかし、原審が破防法三八条二項二号にいう内乱罪を実行させる目的について説示するところは、結局同罪の成立には、内乱罪実行の正当性、必要性を主張する文書を、その内容について認識しながらこれを頒布することだけでは足りず、内乱罪を実行させることを目的としてなされることを要するのであるから解釈上この目的を軽視することは許されず、その存否の判断に当っては、特に同法の適用を公共の安全確保のために必要な最小限度にとどめ、その拡張解釈を禁止する旨規定している同法二条の法意にてらし、慎重になさるべきであるという趣旨に帰するのであって、破防法三八条二項二号の解釈適用についての見解を示したに止まり、所論の如く右目的の解釈適用が憲法上の言論自由の保障によってさらに制限を受ける旨を判示したものと解することはできない。したがって、違憲の主張は前提を欠くものである。

二、法令違反の論旨について。

論旨は、採証法則違反および破防法三八条二項二号の解釈適用の誤りをいう単なる法令違反の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。原審が本件被告人らが内乱罪を実行させる目的を有していたか否かの判断に際し、当時の客観情勢ないし被告人らと被頒布者との関係等を考慮したことが採証上合理性を欠くものではなく、また、これにより原審が事実上具体的危険犯説を採用したものと解することはできず、その他原判決に所論の如き違法の点は認められない。

三、事実誤認の論旨について。

論旨は、原審の証拠の取捨判断に対する非難を前提とする事実誤認の主張であって、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。本件被告人らが破防法三八条二項二号にいう内乱罪を実行させる目的を有していたとは認められないとする原審の判断は正当として是認することができる。

また記録を調べても本件に刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。

よって同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 奥野健一 裁判官 山田作之助 裁判官 草鹿浅之介 裁判官 城戸芳彦 裁判官 石田和外)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例